ことばの百科店

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机を「つる」
各地の観光地などへ行くとその土地の珍しい方言を紹介した手拭いやら暖簾(のれん)やらが売られているこ とがよくあります。なかなか面白いのが多くてけっこう楽しめますよね。
ネット上でも「〇〇地方の方言」「どこそこ弁ご紹介」といったサイトがいくつもあります。たいていは珍しい語彙(名詞・形容詞・動詞がほとんど)を羅列して、それらがどういう意味かを標準語に翻訳?したものを添える、というパターンですね。こういう場合には使うけれども こんな時に使うと誤解されやすい、などといった理屈っぽいものはあまり見られません。つまり単なる「言い換え」で終わってしまっているのが殆どです。

手拭いや暖簾ならそれでもいいのでしょうが、単なる「言い換え」では困るなあと思う時もあります。

伊勢地方の方言を紹介する場面でよく例に出される代表的なことばに「机をつる」というのがあります。(名古屋や岐阜あたりでも使うようですが)
それの意味として「机をつる」は机を運ぶことだと説明する人が殆どです。でもなぜ使用例として机やら家具やらばっかり出されるのでしょうか。「つる=運ぶ」だったら、郵便屋さんが手紙を運ぶのも、救急車が病人を運ぶのも、タンカーが原油を運ぶのもみんな「つる」でいいはずですよね。でも実際は「郵便屋さんが手紙をつる」とか「救急車が病人をつる」とか「タンカーが原油をつる」なんて決して言いません。

独りでは持ち上げられないような大きな(特に重い)ものを二人以上が力を合わせて持ち上げるのが「つる」なんです。だからこそ「つる」の使用例として「机をつる」がよく出されるのだということがわかっていただけるでしょう。

「つる」に「運ぶ」の意味はない、移動・運搬という概念は含んでいないと私は思います。(少なくとも私の出身地ではそうです) そりゃまあ、考えてみれば 机を「つる」のは十中八九「運ぶ」ときでしょうけど・・・極端な話、机を「つって」いる間にその下にマットを敷くなんてことも絶対ないとは言えません。一歩も移動していないけどそれも「つる」は「つる」です。

幼少時に習得した言語を「母語」というらしいのですが、それを使いこなす能力と それについて誰かに解説する能力とはまるっきり別の物です。音楽の才能や運動神経のような物でしょうか。もちろん頭の良し悪し、知能程度とは関係ありません。
何とかを「つる」の使用例として すぐ机やら家具やらを持ち出す人は、「郵便屋さんが手紙をつる」とか「救急車が病人をつる」なんて決して言わないのだということを完璧にわかっている(だから机や家具が出てくる)が あくまでも内面的・潜在的理解(こんな言葉があるかどうか知りませんが)なので、いざ誰かに説明するとなると「”机をつる” は机を運ぶことだ」とやってしまう、のだろうと思います。
ベテラン選手が必ずしもコーチとしては有能ではないのと似ていますね。


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