ことばの百科店

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「と抜け」はない
このテーマの最初にご紹介しました梶井基次郎作「城のある町にて」をここでも取り上げます。("「ぞな」について”

『主人公の峻(たかし)が姉夫婦とその娘・勝子と4人で城跡へ散歩に出かける場面で勝子の祖母が勝子に向かい「勝子、帰ろ帰ろ言わんのやんな」と言います。幼い少女がすぐ退屈して帰りたがるのを見越して釘を刺すように言うのですが、問題はこの「・・・やんな」です。』

この文章↑に引用している「勝子、帰ろ帰ろ言わんのやんな」という祖母の言葉は伊勢ことばとしては不自然だと思います。もちろん「・・・やんな」は伊勢ことばとしてごく自然です。問題はそれの直前の「と抜け」です。

「と抜け」とは何か・・・
例えば自己紹介する時「(私は)田中と申します」「田中と言います」などと言う場面で「田中言います」という言い方をする地域があります。また、親が子供に(お礼を言いなさいの意味で)「ありがとう、って言いなさい」ではなく「ありがとう言いなさい」と言ったりもします。関西など西日本に多いように思いますが、いわゆるクオーテーションの「と」や「て」を省いてしまうわけです。「広島の”と抜け”」などと言う人もいますが、別に広島に限った現象ではありません。

伊勢ことばではこの「と抜け」の言い方はまず聞かれません。冒頭の例で言えば「帰ろ帰ろて言わんのやんな」が普通じゃないでしょうか。もっと言えばこの「と」や「て」は、自然の会話の中では、母音が脱落して子音の「t」だけになってしまうことが多いようです。
「良かった思います」でもなく、「良かったと思います」でもなく、「良かったともいます」でしょうね。
もう一度冒頭の例を持ち出すなら「帰ろ帰ろちゅわんのやんな」が、私個人としては最もなつかしい響きです^^)

梶井基次郎という人は大阪生まれで幼少時は大阪で過ごし、その後父親の転勤で東京やら三重県鳥羽やらに住み、13歳ごろに大阪へ戻ったそうです。伊勢ことばを描写したつもりが、つい大阪風の「と抜け」が出てしまったのでしょうか。

三重県中部(伊勢地方)の方言は近畿方言に属するようです。たしかに他府県の人が聞くと関西弁にしか聞こえないだろうと思います。しかし、関西地方の他の地域の言葉にはない いくつかの特徴(トゲ?)が伊勢ことばにはあります。「と抜け」がない、というのもその一つです。
それらを(もちろんそれ以外も)取り上げてご紹介していこうと思っています。


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