ことばの百科店

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大きな針金ください

「すみません。おっきい針金がほしいんですが、あります?」若い作業員が私の所へ来てこう言いました。 ん?おっきい(大きい)針金?
太い針金かい?」「はい、大きい針金・・・」 いわゆる「番線」と呼ばれる太めの針金を彼は探しているようです。でもなぜ「太い」と言わずに「大きい」と言ったのでしょうか。
彼は愛媛県宇和島地方の出身です。故郷の中学校を卒業して大阪で就職し、まだ2年足らず。毎日頑張っています。

・・・なるほど。じゃあ、彼の出身地では「太い」を「大きい」というのだ・・・ 残念、違います。逆なんですよ、逆。

四国の一部や九州(全域かどうかは知りませんが)では「大きい」も「太い」も区別なく、どっちも「太い(太か)」というようですね。愛媛県八幡浜から出稼ぎに来ている小父さんたちが、例の有名な強盗事件に関連した会話で「3億っちゅうたら太いけんのう」と話していたのを聞いたことがあります。

では、なぜ宇和島出身の彼は「太い」ではなく「大きい」と言ったのでしょうか。(ここからは私の勝手な推測、というよりほぼ作り話ですが まんざら的外れでもないと思います)

中学校や高校を卒業して就職・進学で都会に旅立つ生徒達に担任の先生はこう言います。
「いいですか、みなさん。都会へ行ったら決して”太い”なんて言うんじゃありませんよ。標準語では”大きい”と言うのです。”太い”なんて言ったら都会の人達に笑われるしバカにされますよ」

先生もたいてい地元出身で、自分自身何年か前に都会へ出て方言を笑われた、その経験から得た貴重な教訓ですから生徒達も真剣に聞きます。
別の記事でも書きましたが、この地方出身だから「大きい」をいつも「太い」と言う。人間はそんなに単純ではありません。("「モジク現象」とは?”

「太い」なんて言葉を使ったら「田舎言葉」を笑われる。だから「標準語」で言わなきゃ、「大きい」と言わなきゃ。こんな意識、信念とでも名付けたいような強い意識がその人を支配します。その結果が「大きな針金」なんです。
おわかりでしょう。「モズク」→「モジク」と全く同じ構造です。

その宇和島君は私の事をきっと「都会で何年も暮らしているのにいっこうに田舎言葉が治らない哀れな先輩」と思ったに違いありません(笑)


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