ことばの百科店

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「モジク現象」とは?

私が社会人になりたての頃、ずいぶん昔の話です。何人かの友人達と山陰旅行をしました。
島根県の玉造温泉に泊まったとき、旅館の朝食で海藻の酢の物が出ました。私は山育ちなので海産物のことはよく知りません。見たこともない海藻だったので仲居さんに「これはなんですか?」と尋ねたところ「モジクです」という答えが返ってきました。
それで私は「モジク」が正しい呼び名だとずーっと思い込んでいました。一般的には「モズク」と呼ばれているのだと知ったのはだいぶん後のことです。 仲居さんはなぜ私にモズクのことを「モジク」と教えたのでしょうか。そのなぞが解けたのはさらにずっと後のことでした。以下は私の推理です。

玉造温泉がある島根県東部の方言は俗に「出雲のズーズー弁」と呼ばれ、東北地方の方言に似た響きがあります。(最近の出雲地方はどうなんでしょうか?)
ズーズー弁というのは「シ、ジ」がうまく発音できず「ス、ズ」になってしまうと思われたためにつけられたあだ名なのでしょうね。厳密にはそんな単純なことではないようですが。でも当事者がそれを意識し始めるとやっかいです。
「“ズ”はズーズー訛だ。標準語では“ジ”と発音するのだ」という思い込みが生じます。

松本清張氏の名作「砂の器」はその「出雲のズーズー弁」が謎解きの鍵になっています。ご存知の方も多いでしょう。

仲居さんは多分地元の方で、職業柄いろんな地方の人と接することが多いので「ジをズと訛ってはいけない、標準語で言わなきゃいけない」と意識しすぎた結果、「モズク」が「モジク」になったと考えられます。

柴田武先生の「日本の方言」(岩波新書)で紹介されている話ですが、宮城県白石市出身で東京で小学校の先生をしている方が黒板に「地球」と大きく書いて、それに「キキュウ」とふり仮名をつけたそうです。「キ」を「チ」となまるのが自分の方言だから気をつけなくちゃ、と意識しすぎた結果らしいのです。

幼児期に自然に習得した言語(母語)以外の言語を使おうとする時は大なり小なりこんな現象が発生します。出身地が**地方だから どんな土地へ行っても「キ」を「チ」と発音してしまうとか、「シ、ジ」が「ス、ズ」になってしまうとか、人間はそれほど単純ではありません。そのあたりを説明しても理解してくれる人は、残念ながら極めて稀です。

私は、あの仲居さんに敬意を表して、これを「モジク現象」と名づけました。 よく注意してみるとけっこう見つかるものです。あなたも身の回りの「モジク現象」を探してみませんか。


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