ことばの百科店

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それは「容疑者」じゃなく「犯人」

犯罪事件が発生したとき、それの犯人(ではないか)として捕まった人を新聞やテレビ等は「なんとか容疑者」という呼び方で報道しますよね。いつごろからそうなのか、一説によると1990年ごろかららしいのですが、それまでは「なんとか」だけ、つまり呼び捨てでした。(最近の若い方はあまりご存じないとか?)
おそらく某公共放送が始めたことなのでしょうけど、それはともかく。

勘違いしないでほしいのですが、私は「なんとか容疑者」という呼び方に異議を唱えるつもりはありません。「推定無罪」という考え方は正しいと思います。(この記事のタイトルだけを見ると勘違いされそうなので・・・)

私が言いたいのは、そういう話とは全く別の角度からの話なんです。

仮に、こんな事件を想定してみましょう。
ある女性が遺体で発見されました(いきなりですみません)。遺体の様子や周囲の状況から判断すると自殺や病死・事故死は全く考えられません。何者かに殺害されたことが明らかです。どこの誰がこの女性を殺害したのか見当もつきません。

さて質問です。(あくまでもこの段階での質問ですよ)この「何者か」、つまりこの女性を殺害した人物のことをあなたは「容疑者」と呼びますか? まさかそれはないでしょう。殺害したことが明確ならば「容疑者」じゃなく「犯人」ですよね。第一、殺害したのではないかと疑われている人、つまり「容疑者」はまだどこにもいない段階ですから。

でも実際にいるのですよ、そのあたりを理解できないひとが。それも、よりによって、報道関係者つまりこういうニュースを発信する側に多いのです。

ご記憶の方も多いと思いますが、2015年1月にフランスで風刺週刊誌「シャルリエブド」本社が何者かに襲撃されました。それを報じる記事や関連する記事はもちろん沢山ありますが、ある大手経済新聞の記事にこんなのがありました。
「風刺週刊紙本社を銃撃し、12人を殺害したアルジェリア系フランス人の容疑者・・・」
「両容疑者は7日、パリ市内の風刺週刊紙「シャルリエブド」本社に押し入り銃を乱射、12人を殺害して車で逃走した。」

その事件の翌月、コペンハーゲンでもテロ事件がありました。それを報じる別の大手新聞の記事に「容疑者は単独とみられ、・・・」と書かれているのを見ました。(笑わない笑わない・・・)

2016年8月には和歌山市で男性4人が男に拳銃で撃たれ、1人が死亡、3人が重傷。男は拳銃を持ったまま逃走し、集合住宅で17時間以上立てこもり、あげくのはてその拳銃で自殺、という凄惨な事件がありました。その事件の真っ最中、現場でマイクを握る男性リポーターがこう叫んでいました。
容疑者が拳銃を持って逃走しているため、付近の住民は不安と恐怖で・・・」

「容疑者(または「被疑者」)」というのは当該刑事事件を犯した犯人として疑われている人、という定義がいつのまにかどこかへ消えてしまっていますよね。つまり、報道関係者(全員とは言いませんが)の方々の頭の中では「容疑者」と「犯人」は完全な同義語になっているとしか思えないのです。 ただ、社の方針やら上司の指示やらで「犯人と言ってはいけない。容疑者と呼ぶのだ」というルールのようなものが働いて、半自動的に言い換えがなされているというだけでしょう。

「”犯人”というのは、警察などの捜査機関が事件を認知し、まだそれを行った人物を特定出来ていない場合、身内で交わされる呼び名のようです。」(「刑事事件 弁護士相談広場」)
これですよ、これ。ここが理解できないから「容疑者が12人を殺害・・・」とか「警察は一刻も早く容疑者を捕まえるべく・・・」なんて平気で言えるのでしょうね。
知識と論理思考は別物でそれぞれ遠く離れた場所にあるのでしょうか。


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